舌痛症に要注意だ

舌の先や縁がヒリヒリ、ピリピリ

 最近、注目されている「舌痛症」をご存じか? 文字通り舌が痛くなる“病気”なのだが、痛みを抱えたまま何年も病院を転々とする人が珍しくなく、中には思い悩んでうつ病を発症する人もいるという。分かっていないことが多く、知名度も低いため、適切な治療を受けられないのだ。そこで、この舌痛症の治療を積極的に行っている元東京医科歯科大助教授で、現「講道館ビル歯科・口腔外科」院長の高橋雄三氏に話を聞いた。

 まずは、特徴だ。
「舌の痛みの原因は、大きく2つに分けられます。ひとつは器質的(肉眼的)変化が見られる場合で、舌炎症、舌咽神経痛、舌がん、肝硬変、糖尿病、栄養欠乏などがあります。もうひとつが器質的変化はなく“痛い”という訴えだけがある場合で、舌痛症はこれに属します」
 舌痛症の痛みは、舌全体ではなく特徴があるという。
「臨床で多い訴えは、舌の先や縁の痛みです。“今日は舌先、昨日は縁”というように、痛みの部位や範囲が日によって変わります。舌全体や真ん中が痛むことはほとんどない」 痛みの感じは、ヒリヒリ、ピリピリ、チクチクといったもの。ヤケドをしたときのような灼熱(しゃくねつ)感を訴える患者も多い。
「さらに舌痛症の大きな特徴として、集中しているときはほとんど痛まないのです。たとえば、食事中、入浴時、仕事中などは、痛みが消えていたり、かなり軽減したりする。睡眠中も、眠りを妨げるほどの強い痛みがない人が大半です」
 痛みに加えて、口の中の乾き、味覚異常、口内や咽頭の違和感の訴えもよくあるという。
 なぜ起こるかが問題だが、今のところ原因はハッキリと分かっていない。
「ただ、心理的要素が深く関係していることは確か。きちょうめん、完全主義、執着心が強い、といった性質の人が舌痛症を発症しやすく、患者さんは次の3つのどれかに当てはまることが多い。(1)舌がんや喉頭がんなどのがんへの恐怖感(2)本当は正常なのに、舌の組織に異常があると思う(3)歯科処置、口腔内疾患が原因で舌が痛くなったのではと思っている――です。ストレスや心身疲労が加わると、痛みが増大することからも、心理的要素との関係がうかがえるのです」
 治療は面接による心理療法が中心だ。精神を健康に保つための食生活の指導を行うこともある。
「がんではない、舌の組織は異常ではなく正常だ、歯科治療に問題はなく、口腔内炎症も起こっていないことなどを理論的に説明し、患者さんの思い込みを解消します。医師が一回きっちりと言えば、大半の患者さんは痛みが激減します」
 そう聞くと、“何てことない病気”と思うが、現実は適切な治療がなかなか受けられず、痛みに悩みながら、何年も転院を繰り返す人が大半なのだ。
「残念なことに舌痛症には、100%痛みが消える治療法は現在のところありません。しかし、痛みの度合いを10〜20%にまで減らし、日常生活に影響がないようにすることは十分に可能です。器質的疾患はないけど舌が痛む、というときは、舌痛症を疑って口腔外科を受診することをお勧めします」
 あなたの舌の痛みも、もしかしたら……。

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