皮膚がん


 皮膚がんで最も多いのは基底細胞がんだが、転移はほとんどしない。怖いのはメラノーマ(悪性黒色腫)だ。悪性度が高い上に、非常に転移もしやすい。近年増えている皮膚がんで、高い評価を受けている病院を紹介しよう。

●国立がんセンター中央病院(東京都)
 国立がんセンター中央病院の皮膚科は、年間約230例以上の皮膚がんの治療を行う。このうち約100例は、メラノーマだ。年間の皮膚がんの治療数、メラノーマの治療数ともに全国トップだ。
「メラノーマは外科手術が中心です。軽い人は腫瘍の周囲1センチ、重い人は2〜3センチ切除します。手術時にはセンチネル(見張り)リンパ節生検を行っています。このリンパ節を調べて転移がなければ、その先のリンパ節切除はしません。センチネルリンパ節生検を行うことで、むくみなどの術後の障害を未然に防ぐことができます」と山崎直也医長。
 メラノーマには、術後の再発防止にインターフェロンβと抗がん剤を用いた治療を行う。リンパ節転移のない軽症の場合(2期)は、インターフェロンβだけ10日間用いる。リンパ節転移のある場合(3期)には、インターフェロンβのほかに3剤の抗がん剤による併用療法を5日間行う。退院後もこの再発防止治療を定期的に繰り返す。
「メラノーマの1期の5年生存率は100%、2期なら約90%、3期でも約60%です。生存率も術後のQOL(生活の質)も格段に向上しています」(山崎医長)

●信州大学病院(長野県)
 信州大学病院皮膚科は、90年から皮膚の病変を大きく拡大して観察するダーモスコピーと呼ばれる診断法を取り入れ、皮膚腫瘍の診断精度を向上させている。皮膚病変にゼリーを塗ってガラス板で圧迫し、光を当てて拡大して見る診断法だ。
「皮膚がんの中でも、悪性度が高く転移しやすいメラノーマ、局所で無制限に増殖する基底細胞がん、良性の脂漏性角化症(老人性イボ)、母斑(ホクロ)は、鑑別が難しく誤診されることがまれではありません。通常の視診では正診率は75〜80%ほどですが、当科ではダーモスコピー診断などを用いて正診率を90%以上に向上させています」と斎田俊明教授。
 同科の皮膚腫瘍の診断精度の高さは全国最高レベルと評価されている。とくに、日本人に多い足底のメラノーマの早期病変のダーモスコピーを解明した研究は国際的に注目されている。正確な診断のうえに、皮膚がんに対して手術から化学療法まで適切に行えるようにエキスパートが協力して診療にあたっている。
「メラノーマについては遺伝子治療や温熱免疫療法などの先進的治療法の開発にも取り組んでいます」(斎田教授)

●九州大学病院(福岡県)
 九州大学病院の皮膚科では、進行期のメラノーマに対し、樹状細胞療法と呼ばれる治療に取り組んでいる。
「2002年から進行したメラノーマ13例に臨床試験として行っています。副作用が少なく、今後の治療法として期待できます」と師井洋一講師。
 樹状細胞は免疫の司令官と呼ばれる細胞だ。がん細胞を攻撃する免疫機能に指令を出して働かせる役割を持つ。その樹状細胞を患者の血液中から取り出して、患者のがん細胞を加えて培養し、再び体内に戻す――という治療法である。
「培養中に、この患者さんのメラノーマを攻撃するようにと樹状細胞に覚え込ませます。がん細胞だけに作用するため、効率がよく、しかも患者の体への負担が少ないという利点があります。現時点では目覚ましい効果とはいえませんが、さまざまな工夫を行っています」と師井講師。
 現在、この臨床試験を行っているのは同科を含めて全国で7〜8施設だけである。

【病院名・診療科・医師名・電話・治療方針・特徴】
■北海道大学病院 形成外科 山本有平教授 古川洋志助手(電話)011・716・1161(北海道)
センチネルリンパ節生検や抗がん剤感受性試験を導入し、皮膚がんの集学的外科治療を行う。形成・美容外科手術を応用しQOL向上
■埼玉医科大学病院 皮膚科 田口理史講師(電話)049・276・1111(埼玉県)
メラノーマなどの皮膚がんに年間20例を超えるセンチネルリンパ節生検を行って良好な手術成績。ダーモスコピーによる診断も行う
■国立がんセンター中央病院 皮膚科 山崎直也医長(電話)03・3542・2511(東京都)
年間の皮膚がん治療数、メラノーマ治療数とも全国一。術後化学療法で生存率向上。センチネルリンパ節生検で術後のQOLも向上
■虎の門病院 皮膚科 大原國章部長(電話)03・3588・1111(東京都)
年間症例数約150例。的確な診断と十分な説明、高度で経験豊富な手術手技を持つ。早期・軽症例には外来手術も行う
■信州大学病院 皮膚科 斎田俊明教授(電話)0263・35・4600(長野県)
日本の皮膚腫瘍学の中心的施設。診断から治療まで専門医が揃っている。とくにメラノーマの研究は国際的に高く評価されている
■静岡県立静岡がんセンター 皮膚科 清原祥夫部長(電話)055・989・5222(静岡県)
すべての皮膚がんに対し進行度に応じてあらゆる治療を提供。部位的に手術が難しい症例には陽子線療法も積極的に行っている
■浜松医科大学病院 皮膚科 瀧川雅浩教授(電話)053・435・2111(静岡県)
難治性のメラノーマに対して、自らのT細胞を活性化する経皮免疫療法を行う。副作用、苦痛もほとんどなく良好な成績
■名古屋大学病院 皮膚科 富田靖教授(電話)052・741・2111(愛知県)
昨年の皮膚がん手術数149例(メラノーマ39、有棘細胞がん25、基底細胞がん35等)で全国有数。センチネルリンパ節生検34例実施
■九州大学病院 皮膚科 師井洋一講師(電話)092・641・1151(福岡県)
日本初の高度先進医療・センチネルリンパ節生検を皮膚悪性腫瘍全般に施行中。進行期メラノーマに樹状細胞療法を行っている
■熊本大学病院 皮膚科 影下登志郎助教授(電話)096・344・2111(熊本県)
メラノーマの症例数は全国トップクラス。進行度に応じた手術や化学療法を実践。センチネルリンパ節生検は3D画面で行う

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