口腔がん


 口の中にできる口腔がんは厄介だ。なかでも最も多い舌がんは、あごの下など首周辺のリンパ節に転移する怖いがんである。口腔がんで定評のある病院を紹介する。

●東京医科歯科大学病院(東京都)
 東京医科歯科大学病院放射線科では、舌がん(1〜2期)の小線源治療を年間60〜70例行っている。これは日本ではナンバーワン、世界でもトップクラスの実績だ。
 この小線源治療は、放射線を出す小さな粒(放射性金シード線源)を舌に10〜20個永久的に埋め込んだり、約4センチの放射性セシウム針を10本ほど舌に一時的に刺して行う放射線治療である。
「高齢者やがんが小さい場合には、粒を用います。がんが大きくて、体力のある人には針を使います。放射線によるあごの骨への障害を防ぐために、舌とあごの間にマウスピース(スパーサ)を装着します。病院の歯科医と連携して、オーダーメードのマウスピースを作製しています。そのため、放射線障害はほとんどありません」と渋谷均教授。
 外来通院でマウスピースを作製してから、2〜3週間入院して治療を受ける。放射線を出す粒や針を入れるのに要する時間は30分ほど。針は5〜7日後に抜く。治療後のケアをきちんと行ったあと退院となる。
「小線源治療の5年生存率は、舌がん1期は84%、2期では76%です。手術を行った場合とほぼ同じです」(渋谷教授)
 小線源治療は舌がんのほかに口腔底がん、歯肉がん、頬粘膜がん、中咽頭がんにも行っている。

●愛知県がんセンター中央病院(愛知県)
 愛知県がんセンター中央病院の放射線治療部は、十数年前から、進行した舌がんや歯肉がん、口腔底がん、頬粘膜がんなどに「動注化学放射線療法」と呼ばれる治療を行っている。この治療は、特に舌がんで良好な成績を挙げている。
「2002年までの進行した舌がん(3、4期)40例の2年局所制御率は62%でしたが、2003年以降はシスプラチンを動脈内投与し、同時にその中和剤を静脈投与する方式に変え、32例(3、4期)の2年制御率は80%に改善しています。従来の放射線単独療法では制御出来なかった進行舌がんの治療成績は、手術とほぼ同じになりつつあります」(不破信和部長)
 動注化学療法は、局所麻酔をして耳の前にある浅側頭動脈から細い管(カテーテル)を挿入して、この管を舌動脈に挿入し、抗がん剤を少量ずつ持続的に注入する。治療時間は1時間30分程度で高齢者にも治療できる。
「動注化学療法は全身化学療法に比べて、より高い局所効果が得られます。また、抗がん剤の副作用も少ないのが特徴です」と不破部長。
 放射線治療も同時に行い、総治療期間は6週間ほど。

●千葉県がんセンター(千葉県)
 千葉県がんセンターの放射線治療部は、舌がんや頬粘膜がんなどの口腔がんに強度変調放射線治療(IMRT)を2001年から開始した。これまでに進行した舌がん、歯肉がんなどの口腔がん40例にIMRTを実施し、全国トップクラスの治療数を持つ。
「IMRTはがんの複雑な形に合わせて、放射線照射の強度を変えてピンポイントに照射できます。そのため、従来の放射線治療では問題となりがちな、唾液の分泌低下などを軽減することが可能です。IMRTでは患者さんの大半は治療して1年前後で唾液の分泌が認められます。生存率でも手術をした場合とほぼ同じ成績です」と幡野和男部長。
 IMRTは照射前の準備に時間がかかる。コンピューターで照射量を計算し、試し照射を何度も繰り返して、正確な照射を行う。IMRTの入院期間は1カ月ほど。
「早期の舌がんなどには小線源治療も行っています。頭頚科とのカンファレンスで、患者さんに最適な治療方針を決めます」(幡野部長)
(隔週金曜日掲載=次回は皮膚がん)

病院名・診療科・医師名・電話・治療方針・特徴
■北海道がんセンター 放射線科 西尾正道統括診療部長
(電話)011・811・9111(北海道)
低い線量を出す物質(小線源)を用いて治療を行っているため、放射線障害が少なく、治癒率は高い。日本で最も進行例を多く扱う
■国立がんセンター東病院 頭頚科 林隆一医長
(電話)04・7133・1111(千葉県)
口腔がんに対しては手術治療が中心。手術件数は年間100例を超え根治性と同時にQOLを保持。進行例では再建外科を積極的に導入
■千葉県がんセンター 放射線治療部 幡野和男部長
(電話)043・264・5431(千葉県)
頭頚科とのカンファレンスで治療方針決定。IMRTなどの外部照射や小線源治療を駆使して治療成績の向上を図っている
■東京医科歯科大学病院 放射線科 渋谷均教授
(電話)03・3813・6111(東京都)
舌がんの小線源治療の年間症例数世界ナンバーワン・クラス。歯科医との連携で放射線障害を予防。5年生存率は手術とほぼ同等
■東京医療センター 放射線科 萬篤憲医長 耳鼻咽喉科 藤井正人医長 口腔外科 大鶴洋医長
(電話)03・3411・0111(東京都)
耳鼻咽喉科、口腔外科と強い連携。口腔がん年間50例。放射線で臓器温存。舌がんなどの口腔がんの小線源治療は400例の実績
■癌研有明病院 頭頚科 川端一嘉部長
(電話)03・3520・0111(東京都)
舌がんなどの口腔がんの年間手術件数は100例を超え、そのうちマイクロサージェリーによる口腔再建手術は年間30〜40例の実績
■神奈川県立がんセンター 頭頚部外科 久保田彰部長
(電話)045・391・5761(神奈川県)
進行がんでも超選択的な抗がん剤の動脈内投与と放射線の同時併用療法により縮小手術を可能にして機能温存を目指す治療を工夫
■信州大学病院 放射線科 鹿間直人助教授
(電話)0263・35・4600(長野県)
早期舌がんを中心にセシウム針を用いた組織内照射を行っている。治療方針の決定は耳鼻科や口腔外科と一緒に行っている
■愛知県がんセンター中央病院 放射線治療部 不破信和部長
(電話)052・762・6111(愛知県)
進行がんには抗がん剤を選択的に動脈内投与する動注化学放射線療法を行う。舌がんでは手術と変わらない成績を得られつつある
■九州大学病院 放射線科 中村和正講師
(電話)092・642・5705外来(福岡県)
放射線を出す物質(小線源)を用いて、早期舌がんを切らずに治療する。1〜2期の5年生存率91%と良好

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