食道がんになりやすい逆流性食道炎を見逃すな

胃炎や胃かいようと誤診されるから怖い

 30、40代の男性に逆流性食道炎が増えている。逆流性食道炎は、まだ十分には認知されていない病気で、患者も医者も見逃しやすいといわれるが、放置しているとただではすまない。「約10倍の確率で食道がんになる」とされているのだ。虎の門病院健康管理センターの星原芳雄部長に聞いた。

 逆流性食道炎は胃酸が食道に逆流して食道炎を起こす病気だが、この病気から食道がんになりやすい理由はこうだ。
「食道の粘膜は扁平上皮、胃の粘膜は円柱上皮と呼ばれる細胞の集まりからできています。逆流性食道炎は、食道と胃の境あたりに起こりやすいのですが、炎症が続くと食道粘膜の扁平上皮が胃の粘膜の円柱上皮に置き換わるバレット粘膜になります。このバレット粘膜からバレット腺がんという食道がんが起こってくるのです」
 バレット粘膜のある人は、ない人に比べて約10倍食道がんになりやすいとされている。
 欧米では食道がんは、扁平上皮がんよりもバレット腺がんが多くなってきている。逆流性食道炎から食道がんになる人が確実に増えているのだ。
 50代のAさんは逆流性食道炎で、食道の一部がバレット粘膜に置き換わっていた。半年に1回胃の内視鏡検査を受けていたが、最初の検査から2年後に直径1センチのバレット腺がんができているのが見つかった。
「幸いごく初期のものだったので、内視鏡を使って切除する治療で治りました」
 40代のTさんは食べた物がつかえる感じがすると訴え受診してきた。
「胃の内視鏡検査をすると、長いバレット粘膜があって、そこから進行食道がんができていました。内視鏡を使った治療は無理なので、開腹して胃と食道の一部を切除せざるを得ませんでした」
 バレット腺がんは悪性度が高く、胃がんよりも進行が速いといわれている。Aさんのように早期にがんを見つけるには、そのもとになっている逆流性食道炎を治療したり経過を追ったりしなければならないが、逆流性食道炎が見逃されやすいというから厄介なのだ。
「胃の上部がムカムカすると言って受診しても、胃の内視鏡検査をせずに、胃炎や胃かいようと決め込んで薬を出す医者が依然として多いのです。患者さんもそんなものだろうということで薬を飲む。薬で一時的に症状が良くなるのでやめると、また同じ症状が出る。これを繰り返しているうちに、逆流性食道炎が進行してバレット粘膜が生じ、バレット腺がんが起こるリスクも高まるのです」
 そこで星原部長は、次のような症状がある人は胃の内視鏡検査を受けるように勧めている。

●朝起きたときや食後、かがんだときなどに、胃の上部が重かったりムカムカする。
●甘い物や脂肪分の多い物を食べると胃の上部がチリチリする。
●食べた物や飲んだ物が食道の方に戻ってくる感じがする。
「胃の内視鏡検査で逆流性食道炎と診断がつけば、強い制酸剤であるPPI(プロトンポンプインヒビター)を毎日飲む薬物療法が必要。と同時に、過食しない、脂っこい物や甘い物を食べ過ぎない、寝る2、3時間前には食事をすませるなどの食事の注意が大切です」
 高脂血症が動脈硬化から脳卒中や心筋梗塞を引き起こしやすいように、逆流性食道炎はバレット粘膜から食道がんを発症させやすい。怖い食道がんを予防・早期発見するためにも、逆流性食道炎を意識して、検査や治療を受けよう。

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