認知症 100人に5人は手術で完治する!!

特発性正常圧水頭症が原因なら大丈夫だ

 物忘れ、時間や判断の不確かさ、注意力、集中力、意欲の低下などの症状が老親に出てきたら、大半の人は「親がボケてしまった……」と、愕然(がくぜん)とするだろう。認知症(痴呆症)にはアルツハイマー病、脳血管性認知症、パーキンソン病などがあるが、その中で最も患者数が多いアルツハイマー病と医師に宣告され、完治する治療法がない病気だけに、お先真っ暗になる人も少なくない。
 しかし、ガックリくる前にチェックした方がいいことがあるのだ。
「特発性正常圧水頭症」で、この病気によってもし親の認知症が起きているなら、それは手術で完治する認知症だ。
 医師の間でもまだそれほどは知られておらず、医学教科書にも載っていないというこの病気は、一体どういうものなのか?

 20年以上前からこの病気の研究を行う横須賀北部共済病院(神奈川県横須賀市)の桑名信匡院長(脳神経外科)に聞いた。
「特発性正常圧水頭症は、脳脊髄(せきずい)液の循環障害のために頭蓋(ずがい)内に髄液がたまって、脳室が拡大してしまう病気です。歩行障害、痴呆、尿失禁などの症状が特徴的で、アルツハイマー病などほかの認知症の症状と非常に似ています。一般の人はもちろん、医師もこの病気についての知識がなければ、見ただけでは診断がつきません」
 現段階では、認知症の半数以上を占めるアルツハイマー病などは完治が不可能なため、“痴呆などの症状を進行させない”ための治療が行われる。ところが「特発性――」は、約1時間の手術と1〜2週間の入院で完全に治る。つまり、この病気による認知症は治るということだ。しかし、見落とされるケースが多いため、アルツハイマー病やパーキンソン病など別の病気の治療を受け続けさせられたり、介護中心の慢性ケア病棟に入院させられたりすることが珍しくないという。
「現在、認知症全体の5%が特発性正常圧水頭症によるものといわれていますが、“調べてみたら実は……”というケースが見られるので、個人的には5%よりもっと多い数字になるかもしれないと考えています」
「特発性――」は、歩行障害、痴呆、失禁などの症状に加え、CTやMRIの画像診断と、頭蓋内の髄液を少量抜き症状の改善具合を観察するタップテストによって診断される。CTなどで脳室の拡大が確認され、さらにタップテストで、主に前出の3つの症状が改善されると、この病気と診断され、手術を行う。
 Kさんは、転んで顔面をケガし、脳神経外科を受診。念のために桑名院長がCTを撮ったところ、脳室が拡大していた。家族に聞くと「1カ月前からおもらしがあり、うまく歩けず、トイレもひとりで行けなくなった。物忘れなどもあり、ボケたのかな、と思っていた」。ところがタップテストを行うと、1時間もしないうちにスタスタ歩けるようになり、翌日には尿失禁や物忘れなどの症状がウソのように完全に消えた。その結果から、桑名院長は「特発性――」を確信し、手術を行った。
 パーキンソン病ということで1カ月入院していたOさんは、たまたま桑名院長がリハビリカンファレンス(リハビリの検討会)でOさんの様子を録画したビデオを見て「この歩き方はもしかして……」と思ったことから、CTとタップテストを実施し、本当は「特発性――」だったことが判明した。
「この病気はなぜ発症するかは特定されておらず、だれでも発症する可能性があります。非常にまれですが、50代など若い世代の発症例もあります。認知症を疑う症状があれば、あきらめずに、まずは医師に“特発性正常圧水頭症の検査を”とお願いしてください」
 特徴的な症状は下記の通り。あなたの親は、そして、あなたはどうだろう?

■特発性正常圧水頭症の特徴的な症状
・足元がふらついて歩きづらい
・足がスムーズに前に出ない
・つまずきやすく、不意に転んでしまうことがある
・足が上げづらく、小刻みに少しずつ歩く
・注意力、集中力を維持するのが難しい
・物事を覚えづらい
・ときどき小便をもらす
・排尿を我慢できる時間が短くなった

top>認知症 100人に5人は手術で完治する!!