あなたが悩む体調不良は甲状腺の病気が犯人

やせる、疲れる、気力わかない、心臓ドキドキする…

 いま日本では500万人、26人に1人が、甲状腺の病気にかかっていると推定されている。“甲状腺の病気”といえばつい女性の病気と思われがちだが、男性にも決して珍しくない。しかも初期の場合には、見逃されたり、ほかの病気と間違えられがちだから要注意なのだ。甲状腺の専門病院として知られる伊藤病院(東京・神宮前)の伊藤公一院長に聞いた。

 甲状腺は、首の喉仏の下にある蝶が羽を広げたような形の臓器だ。ここから分泌される甲状腺ホルモンは、全身の新陳代謝を活発にするホルモンで、いわば元気の源だ。
「甲状腺ホルモンが過剰に分泌されているのが甲状腺機能亢進症、いわゆるバセドー病です。バセドー病では新陳代謝が高まりすぎてエネルギーが無駄に消費されるために、さまざまな全身症状が出てきます」
 例えば食べているのにやせてくる、心臓がドキドキする、疲れやすいなど。だからほかの病気と間違えられることが多いのだ。
 40代の会社員Sさんは、普通に食べているのに半年で10キロもやせた。近くのクリニックを受診したら、胃がんや大腸がんを疑われた。胃と大腸の内視鏡検査を指示されて受けたが、異常がなかった。次に糖尿病を疑われて血糖値のチェックを受けたが、これも問題がなかった。本で甲状腺のことを知り、伊藤病院を受診し血液検査ですぐにバセドー病であることがわかった。
 50代の会社員Tさんは心臓がドキドキして坂を上るのが苦しいので、総合病院の循環器内科を受診した。不整脈と診断されて薬を飲んだが、全身症状は治まらない。内分泌内科に紹介されて血液検査を受けたところ、すぐにバセドー病であることがわかった。
 ほかにも間違えられやすい病気はある。
「バセドー病では最高血圧が高くなる傾向があるので、高血圧と間違えられることがあります。下痢したり微熱が出ることもあるので、急性腸炎や過敏性腸症候群と間違えられることもあります」
 バセドー病は男性がかかると重症のことが少なくないという。
「バセドー病の治療には薬、放射線治療、手術の3つがありますが、日本では過剰になったホルモンを調整する抗甲状腺薬による治療が中心になっています」
 バセドー病とは逆に、甲状腺ホルモンの分泌が少なくなるのが甲状腺機能低下症だ。
「甲状腺ホルモンが不足すると新陳代謝が低下するので、体が冷えて寒がりになります。甲状腺ホルモンは脳の細胞を働かせるためにも必要なので、不足すると物事に対する意欲や気力がなくなり、動作が緩慢になってきます」
 40代の会社員のWさんは、バリバリ仕事をこなすタイプだったが、急に元気がなくなり仕事の能率も落ちてきた。会議中でも口数が少なくボンヤリしている。同僚が心配して心療内科のクリニックに連れていった。軽いうつ病と診断されて抗うつ薬を処方されて飲んだが良くならない。伊藤病院の分院であり、やはり甲状腺疾患専門である名古屋の大須診療所を紹介されて受診し、初めて橋本病による甲状腺機能低下症との診断がついた。
「甲状腺機能低下症は記憶力が悪くなったり物忘れがひどくなるので、高齢の方だと認知症(痴呆症)と間違えられて精神病院に入院されたケースもあります」
 甲状腺機能低下症の治療は、甲状腺ホルモンを薬で補給する薬物治療だ。
 バセドー病や橋本病は、少量の採血をしてホルモン量を調べればわかる。
 あなたの体調不良も、甲状腺の異常が犯人かもしれないのだ。症状に心当たりがあれば、一度は内分泌内科か内分泌外科を受診してチェックしてもらおう。


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