前立腺がん「超音波療法」 ほんとはどうなの?


 前立腺がんの最新治療で注目を集めているのが「高密度焦点式超音波(HIFU=ハイフ)療法」だ。「超音波療法」と呼ばれていて、2004年に前立腺がんへの臨床試験が終了し、治療に取り入れる病院が増えた。それに伴い症例数も増えている。そこから浮かび上がったメリットとデメリットは何なのか? 専門医に聞いた。

 転移がない前立腺がんの治療はいくつかある。帝京大学医学部付属病院泌尿器科の堀江重郎教授が言う。
「最も多いのが前立腺そのものを摘出する『開腹手術』です。最近は“切らない治療”として『放射線療法』や『ホルモン療法』、さらに放射性物質を前立腺内に埋める『小線源療法』や『超音波療法』が登場しました」
 超音波療法は、超音波を前立腺がんに当てて80〜98度に加熱し、がんの組織を壊死(えし)させる。しかし誰でもこの最新療法を受けられるわけではない。
「前立腺がんの腫瘍マーカー(PSA値)が20以下(基準値は4以下)」「転移がない」「前立腺が肥大していない」の条件に該当する人が対象だ。前立腺肥大の人も、ホルモン療法で前立腺を小さくすれば超音波療法を行えるケースもある。
 最も症例数が多い東海大学八王子病院泌尿器科のデータでは、PSA値10未満の術後5年間の非再発率は93%、10〜20なら75%。これは開腹手術と大差ない数字だという。
「超音波療法は出血もなく、体への負担が最も少ない。入院期間は開腹手術の3、4週間に比べ、10分の1前後の2、3日で済みます。その日の仕事復帰も可能。小線源療法も“入院期間が2、3日”といわれていますが、放射性物質を体内に埋め込むので放射線治療と同様に周囲の臓器への影響が考えられ、術後1年間は電車やバスなど公共交通機関に乗れないなどの規制があります。ホルモン療法は数年間継続してやると、効かないがん細胞が増殖しますが、超音波療法はその心配はありません」(東京医大病院泌尿器科・青柳貞一郎講師)
 しかし、超音波療法にも問題点がある。前出の堀江教授が言う。
「まず“先を考えると、必ずしも安全とは言えない”という点です。小線源療法などほかの“切らない治療”にも言えますが、前立腺そのものを摘出するわけではないので再発する可能性があり、長期で見ると、“安全面”で落ちます。ですから私はがんの広がりが比較的大きい場合は、15年以上お元気で活躍できると思われる患者さんには開腹手術を勧めています」
 術後、一時的に尿道が腫れて尿が出にくくなるので尿道にカテーテル(管)を約2週間つけなければならないのもつらい。
「超音波療法の手術で尿道狭窄症を起こして、排尿困難になった例もあります」(前出の青柳講師)
 保険適用ではないので、80万〜100万円の費用がかかる。ちなみに開腹手術は保険適用で、自己負担は5万〜6万円ほどだ。
「超音波療法を何回か繰り返すケースは、2回目以降が半額になる病院が大半ですが、それでも金銭面の負担は大きい」(青柳講師)
 さらに、ある専門医は「“注目の最新治療”だからと知識や経験が不十分な病院・医者がこれを取り入れ、そのために患者が、尿が出にくくなるなどの副作用を起こしやすくなることも考えられます。長期間の治療実績がないため、今後どういう副作用が発生するかもわからない」と指摘する。
 超音波療法を選ぶか、開腹手術をはじめとするほかの治療を選ぶか。前立腺がんが発見されてアタフタしないために考えておいた方がいい。


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