うつ病だと思っていたら躁うつ病だった!

いつまでも治らないわけだ

 体がだるくなって気分が落ち込むうつ病は広く知られているが、「うつ病だと思い込んでいたら実は躁うつ病だった」ということがあるので要注意だ。うつ病と躁うつ病では、治療法がまったく違い、躁うつ病なのにうつ病の治療を続けていると、いつまでも治らず、場合によっては悪化することもある。国立精神・神経センター武蔵病院の樋口輝彦院長に聞いた。

 躁うつ病は、「躁」と「うつ」が交互に来る心の病気だ。といっても、うつがメーンで、「躁」はたまにしか来ないケースも少なくない。
「病気の経過の中で“躁”が1回でも出れば、躁うつ病と診断します」
 樋口院長によると、「躁」かどうかを見分けるポイントはこうだ。
 いつもと違って気分が異常に高揚する状態が1週間以上(軽い躁なら最低4日)続くのが前提で、その期間中に次の7項目のうち3つ以上当てはまれば、躁うつ病の可能性が極めて高いという。
(1)自分をとても偉くて、できる人間だと思う
(2)睡眠は7時間必要なのに、3時間眠っただけでよく休めたと感じる
(3)普段よりおしゃべりになる
(4)注意力の集中・持続ができない
(5)1つのことをやり終わらないうちに次のことをやろうとするなど、ちょっとした刺激に次々と反応していく
(6)職場でも家庭でも活発になり、自分では絶好調だと感じている
(7)買い物に抑制がきかない、ばかげた商売に投資するなど、まずい結果になる可能性が高い快楽的活動に熱中する

 40代のある銀行マンは、接客中に大声でどなったり、大言壮語するようになった。金遣いも荒くなり、消費者金融にも手を出す。家族に説得されて精神科を受診したら、躁うつ病だった。
 気分安定薬のリチウムを使ったリチウム療法を開始。3週間後にはかなり治まったが、人事部の配慮で内勤に。リチウムを予防的に服用し5年間問題なく勤務。仕事ぶりが評価され営業に戻されたところ、また「躁」が出て再び内勤に。以後は大過なく勤務している。
 住宅関連企業の30代男性は、ある時期から「睡眠3時間」で頑張り始めた。深夜まで営業で駆けずり回り、他部署の仕事にも口を出す。家に帰ればパソコンとにらめっこ。家族には「もうすぐ社長になる」と言っていた。
 こうした「躁」が2カ月続いた後、急に元気がなくなり会社を休みがちになった。あまりの落差に驚いた家族と一緒に精神科を受診したところ、躁うつ病と診断された。
「“躁”が出たり“うつ”が出たりするといっても、期間からいえばうつが圧倒的に長く、躁は4日から長くても数カ月と短い。そのために、躁が見逃され、躁うつ病のうつを、うつ病のうつと間違えられて、治療を受けている人も少なくないと思われます。
 うつ病のうつには抗うつ薬が効くが、躁うつ病のうつには、抗うつ薬単独では効かないか、あるいは躁に転じることが多い。リチウムなどの気分安定薬を中心に治療していくことが必要。間違った治療は、症状をだらだらと長引かせ、自殺の危険を高めることにもなりかねません」

 躁うつ病のうつの時は、うつ病のうつの時より自殺の危険が高いという。躁うつ病なのにうつ病の治療を受けていたら、かなり危険なのだ。
 うつ病の治療を受けている人も受けていない人も、先の7項目でチェックして引っかかったら、躁うつ病を疑って専門医に相談してみてはどうか。


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