医師が注目する低髄液圧症候群とは?
頭痛、めまい、疲労感…治らないその症状は髄液量の減少が原因だ!
「慢性的に頭痛がする」「腰痛が治らない」「物忘れが激しい」「熟睡できない」など、長年つらい症状を抱えている人に朗報だ。それらの根っこに「低髄液圧症候群(脳脊髄液減少症)」が潜んでいることがあるのだ。この耳慣れない病気の診断・治療を積極的に行っている国際医療福祉大学付属熱海病院・脳神経外科の篠永正道教授に聞いた。
低髄液圧症候群は、脳のくも膜と軟膜の間を循環する髄液が漏れて、量が減少するもの。
「症状は多岐にわたっています。頭痛、めまい、疲労感、記憶力や集中力の低下、肩凝り、腰痛、睡眠障害、気分の落ち込み、汗を多量にかく……などが典型的です」
最近は、“髄液の専門”である脳神経外科に限らず、歯科や神経科、耳鼻咽喉科などさまざまな分野の医師がこれに注目している。「ずっと治らなかった病気が、髄液の漏れを防ぐことで著しく改善した」というケースが多いからだ。
「Kさんは、ひどい頭痛やめまいを何十年も抱えていました。もしやと思った主治医から紹介され、調べると髄液の漏れが認められました。低髄液圧症候群の治療で、驚くほど症状が軽減したのです」
睡眠時無呼吸症候群のTさんは篠永教授の治療後、就寝時に一定圧の空気を鼻から送り込むシーパップ(睡眠時無呼吸症候群の患者に欠かせない機器)を外せた。
顎(がく)関節症で病院を転々としたが改善せず「ストレスが原因」と言われていたYさんは、眠れないほど痛かった顔の痛みが低髄液圧症候群の治療後なくなり、熟睡できるようになった。
ほかにも、抗うつ薬を飲んでも効かなかったうつ病、座骨神経痛、慢性的に疲労感が続く慢性疲労症候群、ひどいめまいのメニエル病、眼精疲労やかすみ目など、さまざまな病気・症状で長年つらい思いをしてきた多くの人たちが、同じ低髄液圧症候群の治療を受け苦しみから脱しているという。
「常時500〜600人ほどの患者さんを抱えていますが、慢性症状を訴えて診察に来る患者さんの8割ほどに髄液の漏れ、つまり低髄液圧症候群が見られます。髄液量は脳に関係しているので、減少すると脳の“コントロール機能”に異常が出て、体のあちこちに症状が出るのは当然考えられます。あらゆる病気に関係していると考えられます」
低髄液圧症候群の対策は難しいものではない。(1)軽症の人は1日2リットルほどの水を飲み、2週間ほど可能な限り安静にして過ごす(2)それでよくならなければ、血液の凝固作用を利用して髄液の漏れを防ぐ治療を受ける。
問題は診断だ。
「MRIで調べるのですが、普通は水平方向に脳を切って診るところを、縦方向などさまざまな角度から診ます。特殊な診断法ではありません。しかし、低髄液圧症候群を念頭に置いて診ないと見逃す可能性が高いのです」
診断は、まず脳神経外科で「低髄液圧症候群の検査をしてほしい」と言う。このとき注意したいのは「髄液圧の低下と髄液量の減少は必ずしも一致しない」ということ。
「髄液量は減少していても、代わりに血液が増えて圧そのものは異常なしのことがあるのです」
「髄液圧が正常なので問題なし」と言われても、安心してはダメだ。
低髄液圧症候群の主な原因は、交通事故や尻もち、スポーツなど体への強い衝撃。しかし衝撃直後に起こるわけではなく、何十年も経ってから症状が出てくる人もいる。まだ解明されていない部分も多い。
いずれにしろ、慢性的な体のつらさがある人は、一度検査を受けてみてはどうだろうか。
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