「心の病」の診断、治療は間違いだらけ

現役精神科医が“内部告発”

 うつ病患者が増える一方だ。老若男女を問わず全人口の10〜15%が何らかのうつ病で、男性は10〜20人に1人、女性は4〜10人に1人が発症しているといわれている。これらは「大うつ病性障害」といって重症うつ病。ところが、うつ病をはじめとする“心の病”の診断には「間違いが多い」と言う現役の精神科医がいるのだ。
「誤診だらけの精神医療」(河出書房新社)を出版した西城有朋氏である。詳しく聞いた。

「“2人の精神科医による診断が一致するのは、ほぼ偶然に等しい”という言葉があるほど、精神科での診断は不確定です。そのことを認識せずに、“決めつけ”で治療を行う精神科医が少なくないのです」
 それが、症状の悪化や再発のリスクを高めている。
 うつ病のAさんは、精神病理学の権威といわれるY医師を受診。「このタイプのうつ病には、抗うつ薬は効かない」と診断され、「休養すればよくなる」といわれた。
 しかし一向に症状はよくならなかった。ところが、医局の若い医師が抗うつ薬を処方したところ、症状が快方に向かった。にもかかわらず、Y医師は「薬が効いたのではなく、自然と症状が改善した」と主張し、若い医師に抗うつ薬の処方をやめさせた。結果、症状は悪化。自殺未遂を起こした後、再発を繰り返し、重い躁うつ病発症に至った。
「こういったケースは珍しくない。精神科医の“決めつけ”から症状がよくなる機会を奪われている患者さんが、日本では非常に多いのです」

 そもそも精神障害は、遺伝子レベルでの研究も含めて、まだはっきりと解明されてはいない。最先端の診断基準でさえ、改訂版ごとに内容が大きく変わるという。
 それほど不確定なものなのに、「Xという症状だからYの治療法」と決めつけすぎるやり方が危険なのだ。
「誤診」や「過剰(小)診断」が多くなるのは当然だろう。適切な薬物治療とカウンセリングを同時に行える医師が日本には非常に少ないことが、それに拍車をかけている。
 適切な治療のためには、少なくとも以下のような場合は医者をかえることを考えるべきだと、西城医師はアドバイスする。

★症状が改善しない
 ほかの病気と違って、うつ病患者には症状が改善しなくても同じ医師にかかり続ける人が多いという。
「米国では5回かえてもかえすぎではないという考えが常識です。症状が改善されなければ、違う病院や医師にかかってみることを考えた方がいいのです。医師が違えば、治療方法も変わります。“相性”も大切なので、医師がかわることで症状が改善されることも珍しくありません」

★薬を飲み続けても症状がよくならない
 抗うつ薬は「すぐに効果が出ないのが当然」と考える人が多いが、「1週間経っても薬の効果がまったく出ない場合は、薬の量を増やしても、長く飲んでも効果がない場合が多い」という研究結果があるのだ。少しの変化も感じられないようなら、少なくとも医師に相談すべき。
 薬を服用する前は、副作用についての説明をしっかり受けることも大事だ。

★医師が「このタイプのうつ病には薬は必要ない」と断言する
 薬とカウンセリングとの併用で効果が上がる、という報告がある。最初から「薬は効かない」と強調しすぎる医師は“決めつけ治療”になりかねないので、こういった医師は避けるべき。

★医師とのコミュニケーションが不十分
 治療法や薬について十分に説明をしてくれる医師を選ぶことは、適切な治療を受けるうえでの基本だ。
 もしあなたが、あるいはあなたの家族が精神科治療で行き詰まっているなら、一度医師との関係などを見直した方がいい。

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