劇症I型糖尿病にやられない注意ポイント

治療遅れると4日で命が危なくなる

 15年ほど前に確認された「劇症I型糖尿病」が問題になっている。風邪の症状に似ているため、誤診され見逃されやすく、それで治療が遅れると平均4日で命が危うくなる。しかも、原因不明で、だれでもかかる恐れがあるのだ。実際、裁判になっているケースもある。大阪医科大学第一内科の花房俊昭教授に聞いた。

 まずは誤診が原因で、命を失った例だ。
 発熱、口の乾き、多尿などを訴えて近くの開業医を受診したAさん(42歳)は、検査の結果、血糖値が445まで上がっていた。担当医は「II型糖尿病」に使う血糖降下剤を処方。しかし帰宅後にのどの渇きは一層ひどくなり、一晩中吐き続けた。
 翌日、総合病院の外来を受診したときには血糖値が643まで上がっていたが、翌日の入院を指示され帰された。翌日、何とか病院に着いたが、血糖値が1500以上になって糖尿病性昏睡に陥り、治療のかいなく死亡した。
 この例でもわかるように、発症平均年齢40歳とされる劇症I型糖尿病は、のどの痛み、発熱、上腹部痛などの風邪症状から始まる。次いで、のどの渇き、ひどい全身倦怠(けんたい)感、夜は1、2時間おきにトイレに立つ多尿などの症状が出てくる。そうこうするうちに、意識がもうろうとしてくる。
「症状が出てから重篤になるまでの期間が短く、平均4日でインスリンの分泌がなくなって生命の危機にさらされます。ところが風邪症状を訴えて近くの内科を受診しても、風邪や胃炎と間違われ、風邪薬や胃薬を処方されて帰されたり、AさんのようにII型糖尿病と間違われたりすることがあります。薬を飲んでも、治らないどころか、症状は悪化。これはおかしいと救急車を呼んで病院に駆けつけたときにはすでに遅く、命を落としてしまうこともあるのです」
 肥満や遺伝素因をベースに、中高年になってから発症するII型糖尿病はゆっくりと進行する。対して、I型糖尿病は、すい臓からのインスリン分泌が著しく低下して起こる。劇症I型糖尿病はI型糖尿病に属するが、その進行スピードは通常のI型の10倍も速いのだ。
 Aさんは命を落としたが、素早く治療を受けて命拾いしたケースもある。
 風邪症状から始まり、口の乾きと多尿が2日間続いた50代男性Sさんは、近くの病院を受診した。検査の結果、血糖値が811でHbA1cは6.5。尿にケトン体(脂肪代謝の副産物)が多量に出ていた。インスリンの分泌能力は10分の1以下に低下していた。
「緊急入院して大量の生理食塩水の点滴と同時に、インスリンの持続静脈注射を行いました。1日で血糖値はかなり良くなりました」
 といっても一度低下したインスリン分泌能力は元には戻らないので、その後は1日4回のインスリン注射をして血糖値をコントロールしているという。
「血糖値が異常に高いのに、直近2カ月間の血糖値の平均がわかるHbA1cは正常範囲か軽度上昇にとどまること、尿中にケトン体が大量に出ていることなどが、劇症I型糖尿病の特徴です」
 原因は不明。花房教授は、ウイルス感染によって発症するのではないかと考えているが、どんな人がかかりやすく、どんなウイルスが関与するのかはまだわかっていない。ということは、現状ではだれでもかかり得る可能性があるのだ。
「風邪症状に続いて猛烈なのどの渇きや多尿が出てきたら、この病気を疑って尿と血液をチェックし、緊急治療を受けることが必要です」


top>劇症I型糖尿病にやられない注意ポイント