40歳すぎた男の貧血は危ない

痔や胃かいようだけが原因ではない

 40歳すぎた中高年の男性が、健康診断や人間ドックで“貧血”を指摘されたら要注意だ。前の年までまったく「異常なし」だったのに……という人は、特に危ない。思わぬ重大病が潜んでいる疑いがあるのだ。聖路加国際病院内科・西崎統医長に聞いた。

「女性は生理の影響もあって貧血になりやすいが、中高年男性が急に貧血になったら、体に重大異変が起こっている確率が高い」
 貧血かどうかは、血液検査でヘモグロビンの量と赤血球の数を調べればわかる。正常なヘモグロビン量(成人男性)は、血液1デシリットル中に13〜17グラム。正常な赤血球の数は、血液1立方ミリ中に450万〜550万個。ヘモグロビン量が13グラム未満になると貧血だが、その時は赤血球数が400万個未満になっていることが多い。
「成人男性の貧血の2大原因は、痔と胃かいようからの出血とされていますが、これ以外にも貧血が思わぬ重大病のサインのことがけっこうあります。貧血の程度と病気の重症度とは一致しません」
 35歳男性のAさんは、今年の人間ドックでヘモグロビン量が10を切った。排便の際、紙に血がつくことが時々あったが、痔のせいと思っていた。ところが最近は、便を流すと便器が真っ赤になることがある。気になって消化器内科を受診。大腸の内視鏡検査を受けたところ、S状結腸の部分に人さし指大のがんが見つかった。
「大腸がんからの出血のために貧血になっていたのです。幸い転移もなかったので手術で治りましたが、痔と間違えて放置し続けると手遅れになるところでした」
 顔が青ざめている40代男性のBさんは、健診の血液検査でヘモグロビン量が9まで下がっていた。
「問診すると、時々みぞおちが痛み、たまにコールタールのような黒い便が出るとのこと。胃の内視鏡検査をしたら、命を脅かす穿孔を起こすほど危険な胃かいようでした」

 血管の病気で貧血を起こすこともある。
 50代男性のCさんは、健診で昨年16だったヘモグロビン量が11に減った。心配になって胃や大腸の検査を受けたが異常なし。念のため胸部CT検査を受けたら、胸部大動脈解離が見つかった。
「大動脈壁の弱い部分にストレスがかかって、外膜と中膜がはがれる状態になるのが大動脈解離。中膜に血液が入りこむために、血液の流れが悪くなって貧血を起こすのです」
 まさに危機一髪だったが、緊急手術で命を失わずに済んだ。
 貧血がジワジワと進む場合は、肝臓や腎臓に問題があることもある。
 60代男性のDさんは、3年前から今年にかけてヘモグロビン量が13、12、11と低下してきた。体もだるい。
「問診で、お酒をよく飲む方だとわかったので、肝臓を詳しく検査しました。アルコール性の慢性肝炎が進んで肝硬変に近い状態になっていました。肝臓の代謝機能が落ちて栄養バランスが悪くなり、貧血に陥っていたのです」
 慢性腎不全でも、赤血球を作るのに関係する物質(エリスロポエチン)を作る働きが低下して、貧血がジワジワ進むという。
 最後に、血液自体の病気も見逃してはならない。
「骨髄異形成症候群や白血病などでも貧血が出てきます。これらの場合は赤血球だけでなく、白血球や血小板などにも異常が出るのが特徴です」
 たかが貧血と侮るな。ここ数年の検査値をチェックして、変だなと感じたらすぐ検査を受けよう。


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