がんの痛みは除去できる
WHO方式で80〜90%の人の痛みはコントロール
死者数は年間32万人を超え過去最多、3人に1人の死因となっているのががんだ。そのがんからくる激しい痛みやさまざまな苦痛に150万〜200万人が苛(さいな)まれている。これもがんという病気の怖さなのだが、適切な治療を受ければ、“がん痛”は除去できるのだ。緩和ケアの最前線を担う癌研有明病院・緩和ケア科の向山雄人部長に聞いた。
●がんの痛みとはどんなものか?
がんが影響を及ぼしている組織や臓器、神経や骨の痛みです。特有の痛みというものはなく、絶え間ない痛み、体を動かすと出る痛み、電撃のように時折襲う痛みなど、痛みの種類もさまざまです。すい臓がん、胆のう・胆管がん、乳がん、大腸がん、肺がんなどは、がんが悪化したときに痛みが強く出やすいとされています。
●進行すればするほど激しくなるというがんの痛みは除去できるのか?
WHO(世界保健機関)方式に従って薬を使って治療すれば、8、9割の人の痛みをコントロールすることができます。WHO方式とは、経口のモルヒネを中心としたがんの痛み治療の国際標準です。痛みに合った量の薬を規則正しく使うことで、一日中痛みを抑えることができます。
●痛みコントロールの具体的な実例は?
肺がんが首のつけ根のリンパ節に転移して、肩や腕に激しい痛みを訴えていた患者さんは、モルヒネを軸とした3つの鎮痛薬と鎮痛補助薬で痛みが99.9%とれました。また前立腺がんが骨転移して、腰から足の先までがうずいて寝返りを打つこともできなくなった患者さんは、医療用麻薬の張り薬を3日に1回張り替える治療で元気に歩けるようになっています。
●モルヒネで中毒になったり、廃人になったり、死期を早めたりすることはないのか?
かつては死の直前にようやくモルヒネを使っていたこともあって、現在でもモルヒネに対する偏見は強いようですが、そんなことは全くありません。モルヒネを代表とする医療用麻薬は適正に使えば、中毒になることや、廃人になること、死を早めることはありません。長く使うことで精神状態がおかしくなることもありません。
モルヒネは痛みだけでなく、息苦しさを緩和する特効薬でもあります。緩和ケアで痛みなどの苦痛が改善された患者さんは、そうでない患者さんと比較して生存期間が延びるという米国の研究報告もあります。
●日本は緩和ケア医療が遅れているのか?
先進国の中では最も遅れています。イギリスやカナダと比べて、モルヒネの使用量は10分の1以下。緩和ケアができる施設も医者も圧倒的に少ない。大学の医学部や卒後教育の中で、緩和ケアの教育がなされていないということが問題です。
●がんが末期になってからでは遅い?
その通りです。術後や心冠動脈疾患の患者さんにICUやCCUがあるように、がんに伴う苦痛が強い時にはPalliative Care Unit(PCU)に入院することは当たり前のことでしょう。がんが転移・再発した時点から、緩和ケアを受けるべきだと考えています。苦痛の緩和があるからこそ、患者さんは、手術、放射線、抗がん剤治療などの攻撃的な治療を受けられるのですから。がんの治療は「攻撃的治療」と「緩和ケア」の2本柱でいくべきです。
●がんの痛みは主治医にどう伝えたらいいのか?
「腰が痛い」「息が苦しい」「眠れない」など、具体的な悩みを紙に書いて医師に渡すようにしてはどうでしょうか。それでも痛みなどの悩みが解決しなければ、病院の緩和ケア科かペインクリニックのある麻酔科を受診して、痛みのプロに相談されることを勧めます。
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