早期大腸がんにはESDだ

 第65回日本癌学会学術総会が横浜で行われた。発表された2326の最新研究結果の中から、ぜひ知っておきたい価値ある研究を選び、研究者たちに話を聞いた。

 早期胃がんでは標準化しつつある内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)という病変を一括で切除する技術は、大腸がんでは壁が薄く穴をあけてしまう“穿孔”の危険性が高いということで一般化していない。
 国立がんセンター中央病院内視鏡部の斎藤豊医師らは、この穿孔の危険性を少なくしたメスを用いて安全性を高め、早期大腸がんにも積極的にESDを行っている。今学会ではその治療成績を発表する。
「ESDでは、内視鏡下に、先端に電流が放電しないような工夫をしたBナイフやITナイフで病変をはぎ取るように一括切除していきます。対象となるのは、がんの深さが粘膜から粘膜下層の浅層までにとどまる早期がんです」
 この2年間に行われたESDは200例で、そのうちの170例(85%)が完全に治っている。小穿孔を10例(5%)に認めたものの、9例は内視鏡的にクリップ縫縮がされ、保存的に治癒したが、1例のみ腹痛が強く傷を閉じることができずに緊急手術を要した。
 ESDを行った残り30例は、がんが思ったより深く入っていたり、脈管侵襲があったりして、病理組織の問題から追加の外科切除が必要となった。
「従来のワイヤをかけてとる内視鏡治療(EMR)では、がんの大きさが2、3センチまでが一括切除の限界でしたが、ESDでは4センチ以上が75例、10センチを超えるものも7例あります。最大で14センチのがんもうまくいっています。大きさが大きくても、病変が浅ければ、ESDを行えるのです」
 がんの表面の構造を100倍まで拡大して見ることができる拡大内視鏡で、がんの深さを正確に判断できるようになったこともESDの適応拡大に寄与している。
 大腸ESDを受けることができれば、患者の負担は外科手術よりもケタ違いに軽くなる。
「大腸ESDでは軽い麻酔をかけるだけなので、患者さんと話をしながら治療ができます。お腹に傷がつかないし、手術後の痛みも少ない。外科手術を受けると3週間くらい入院が必要なのに対して、ESDは4泊5日で済む。当日と翌日は禁食ですが、3日目にはおかゆをとることができます」
 正確な術前診断に加え、穿孔を予防する工夫がなされ大腸ESDが行えるようになったおかげで、従来外科手術が必要な症例に対しても安全に内視鏡治療をすることが可能となったのだ。しかしながら、それでも穿孔の危険性はゼロではなく緊急手術の可能性もあるため、現時点では、どこの施設でも行える治療ではない。
「また病変が大きくても、従来の分割切除でも対応できる病変もあるので、治療の際は治療法について十分担当医と相談することが必要です」
 大腸ESDを数多く行っているのは、国立がんセンター病院のほかには、虎の門病院、自治医大病院、東大病院、岡山大病院、広島大病院、佐久総合病院、岸和田徳洲会病院など。

 カルシウムとビタミンDに、大腸がんを抑制する効果があることがわかった。九州大学医学部の古野純典教授らは、福岡市の大腸がん入院患者840人と、非大腸がんの住民833人を対象に、148食品の摂取頻度と摂取量について調べ、この2成分の摂取量により5グループに分類。その結果、摂取量がもっとも少ないグループを基準にすると、2成分とも摂取量が最大のグループは、大腸がんリスクが有意に低いというのだ。
 まずはカルシウムだ。共同研究者である国立国際医療センター疫学統計研究部の溝上哲也部長に聞いた。
「カルシウムは、最大摂取グループが最少グループより32%もリスクが低い。カルシウムというと乳製品をイメージしますが、牛乳やチーズは脂肪分も多いので、これらだけでカルシウムを取るのはよくありません。小魚や野菜、大豆など幅広い食品で摂取する方が望ましいですね」
 カルシウムは、体内に吸収されにくく、お酢やレモン汁と一緒に取るのがベター。海藻を酢の物にしたり、小魚にレモン汁をかけるといい。
「ビタミンDも、最大摂取グループが最少の組より22%もリスクが下がっています。ただビタミンDは、食品からの摂取だけでなく、紫外線に当たることでも体内で合成されます。営業マンなど屋外でよく活動する人は、体内での合成量が十分に多いため、食品での摂取効果が少なく、屋外活動の少ない人ほど摂取効果が大きく出ました」
 デスクワーク中心の人は積極的にビタミンDを取るべき。よく日に当たる人も取って損はない。
「ビタミンDはカルシウムの吸収を促進する働きもあるのです」
 ビタミンDは、シイタケやキクラゲ、サケ、イワシに多い。これらの食品は、ぜひ毎日の食事に取り入れたい。

 肺がんの年間死亡者数は男女合計で約5万6000人に上り、がんの中で最も多い。この厄介ながんの新治療法が光線力学的遺伝子治療だ。東京医大呼吸器外科の加藤治文教授らと研究を進める同大の臼田実男医師に聞いた。
「光線力学的遺伝子治療(PDGT)は、従来の光線力学的治療(PDT)の長所と、遺伝子治療の長所をミックスした治療法です。PDTと同様に、腫瘍が気管支の中枢にあってまだ転移していない中心型早期肺がんに行います」
 PDTは、静脈注射でがん細胞のみに蓄積する光感受性物質を投与。この光感受性物質の効果により、レーザーはほかの組織を傷つけず腫瘍のみに当たり、がん細胞を壊死(えし)させる治療法だ。これに対してレーザーを照射せずに治療するのが、PDGTである。
「PDGTは、遺伝子治療によってがん細胞内で化学発光を起こす酵素を強く発現させ、光感受性物質と反応させます。これでレーザーを当てることなく、細胞内でPDTができるのです。がん細胞が死ぬと、酵素を強く発現させた遺伝子も死ぬため、効き過ぎなど副作用の心配がなく、安全。レーザーを使わないので、コストが安く、どこでもだれにでもできる画期的治療法なのです」
 現在は、酵素の発現強度をいかに高めるかがネックで、実用化には至っていないが、実験レベルでの抗腫瘍効果は十分という。
 肺がんは5年生存率が30%ほどと低いが、この治療法が確立されれば、怖い病気ではなくなるかもしれない。

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