新肛門再建術
保険も適用
「人工肛門」というと、「渡哲也がつけているやつ」と連想する人も多いのではないか。
大腸がんのひとつ、直腸がんを発症した場合、がんができた場所が肛門に近いと、がんと一緒に肛門括約筋の切除が必要になる。そして人工肛門の生活を余儀なくされるのだが、この“運命”から逃れられる手術、「新肛門再建術」があるという。この手術を確立した国際医療福祉病院外科・佐藤知行助教授に話を聞いた。
まず、「新肛門再建術」とはどういうものか説明しよう。
「便が漏れ出ず、出したいときにいきんで出せるのは、肛門括約筋が正常に働いているから。手術で肛門括約筋を取ると、これができなくなるため、人工肛門の装着になります。そこで私が考えたのが大殿筋の一部を、手術で切除した肛門括約筋の代わりに働かせようということ。これが新肛門再建術なのです」
分かりやすく言うと、筋肉は神経の支配下にある。たとえば「筋肉A」は「神経A」の支配下にあって、働きを決められている。これをある技術によって、「筋肉B」も「神経A」の支配下にしたら、「筋肉B」は「筋肉A」と同様の働きをするようになるというのだ。
「肛門括約筋は陰部神経の支配下にあります。この陰部神経に、大殿筋を支配する下殿神経をつなぐと、大殿筋は陰部神経の支配下に変わる。つまり、大殿筋は肛門括約筋と同じ働きをするようになるのです」
前述の例で言うなら、肛門括約筋が「筋肉A」、陰部神経が「神経A」、大殿筋が「筋肉B」。
佐藤氏がこの新肛門再建術を確立したのは1995年のこと。これまでに約50人の患者に行った。
「アンケートを取ると、人工肛門より優れていると答えた人が8割、人工肛門と同等と答えた人が2割です。否定的な意見はひとつもありませんでした。確かにがんを発症する前の肛門と比べると、時々下着を汚すなどで、働きは劣ります。しかし、新肛門はいきむこともできるし、何より“自分の肛門で排便できる”“人工肛門のようにビジュアル的なショックがない”といったことが、患者さんの満足度の高さにつながっています」
新肛門再建術は次のように3回に分けて行われる。(1)直腸がんと肛門を切除(2)大殿筋を支配する下殿神経と、肛門括約筋を支配していた陰部神経をつなぐ。大殿筋はS状結腸に巻きつけて“新肛門括約筋”として肛門を再建する(3)新肛門括約筋がきちんと働き出すまで約6カ月必要。働きを確認できたら、一時的につけていた人工肛門を閉鎖する。
1996年にこの手術を受けた50代のKさんが、新肛門括約筋のかすかな動きを初めて感じたのは(2)の手術の約4カ月後。6カ月後には佐藤氏も働きを確認できたので、(3)の人工肛門閉鎖の手術を受けて終了した。
「この4日後には友人と夜釣りに出かけられるほど回復していましたね。最初は便を漏らすこともあったが、次第にスムーズな排便ができるようになった。便がたまれば便意を感じ、便とおならの違いも認識できます」
新肛門再建術は、「大腸がんでこれから人工肛門をつける人」はもちろん、「すでに人工肛門をつけている人」もOKだ。しかも、直腸がんの手術と便失禁症の2つの手術を行うという形で、健康保険も適用されるという。
人工肛門で生活の質が著しく低下している人にとって、まさに朗報なのだ。
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