日本にも登場した歯科口腔ペインクリニックのあの手この手


 歯医者では解決できない口の中や顔面の激痛に悩む人が増えている。2000年11月に東京歯科大学水道橋病院にオープンした「口腔顔面痛みセンター」には、毎年、全国から約7000人もの患者が訪れる。どんな痛みにどう対処しているのか。同病院の歯科麻酔科科長・福田謙一氏に聞いた。

 虫歯、歯周病、外傷(けが、骨折)、歯髄炎などからくる痛みは、歯科医師が口の中を診察したりレントゲン写真を撮れば、原因を特定できる。歯科口腔領域のペインクリニックである「口腔顔面痛みセンター」を受診してくるのは、これらの方法では、原因がはっきりわからない“しつこい痛み”を抱えた患者だ。
「具体的には、歯を抜いた後の神経因性疼痛(とうつう)、あごを動かすそしゃく筋やあごの関節の痛み、口の中の粘膜や舌の痛みなどを訴えてこられる患者さんが多いですね。いくつもの科や病院を渡り歩いても原因不明なので、精神的な問題で片づけられてしまっているケースも多い。当センターでは、原因を究明しつつも、まずは痛みを取り除くことに全力投球します」
 超多忙な日々を送っていた20代のAさん。3カ月前に、突然、左あごから左耳にかけて激痛が始まった。あまりの痛みに救急車を呼んで病院へ。脳外科で三叉(さんさ)神経痛を疑われて特効薬を飲んだが治らない。内科に回されて鎮痛薬を飲んだがこれも効かず、同センターを受診した。
「星状神経節ブロックといって、首の部分にある星状神経節に交感神経の働きを抑える薬を注射したら、痛みはかなり緩和されました。その上で、このゴールデンウイーク中、鎮痛剤を飲みながらゆっくり休養をとってもらったところ、痛みをほとんど感じないまでになりました。顔には複雑に神経が来ている。過労などによるストレスが、神経を敏感にさせてあごの筋肉に激しい痛みを引き起こしたものと推定されます」
 40代のSさんは、激しい頭痛と吐き気を覚えて救急車を呼んだ。脳外科に連れていかれたが検査では異常がない。最近、歯と神経を抜いたので、歯に原因があるのではないかと考えて同センターを受診した。
「近赤外線照射とトリガーポイント注射、神経の働きを回復させる薬の点滴注射などで、痛みは徐々に回復してきました。歯の神経に原因がある筋肉痛だったと思われます」
 60代のTさんは、舌と上あご粘膜の痛みと灼熱(しゃくねつ)感で、夜も眠れない。歯科、内科、耳鼻科と回ったが、よくわからないと言われて同センターを受診した。
「てんかんに効くリボトリールと抗うつ薬のトリプタノールを服用してもらったところ、ウソのように痛みが治まりました。現在も通院治療中。舌の粘膜を強化する漢方薬も飲んでもらっています」
 親知らずを抜いたり、あごの骨の腫瘍をとった後に痛みが治まらず、駆け込んでくるケースもある。
「痛くて物が食べられないようなケースでは、入院していただいて治療することもあります。すべてのケースの痛みがとれるわけではありませんが、いろいろな方法を駆使して患者さんに楽になってもらうように努めています」
 米国では歯科大学の中に「口腔顔面痛みセンター」があるところが多いが、日本ではまだ少ない。同病院のほかには、九州歯科大学に「口腔神経科」、東京医科歯科大学に「ペイン心療歯科」があるくらいだ。


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