無症状のままジワジワと腎臓が硬く、小さくなっていく
腎臓の血管が動脈硬化を起こし、腎臓が硬く小さくなっていく腎硬化症。高血圧人口の増加に伴い増えていて、人工透析の原因の第3位を占める。早期発見がしにくく、病院に行ったときには人工透析目前というケースが多いという。この怖い腎硬化症から身を守るための必須知識を、順天堂大学医学部腎臓内科・富野康日己教授に聞いた。
わが国の高血圧患者数は3300万人に増えたといわれる。高血圧が続くと脳卒中や心臓病が起こりやすくなることはよく知られているが、実は腎臓にも悪影響を及ぼすのだ。
「腎硬化症は高血圧性腎障害の代表です。高血圧が長期間続くと、腎臓内の細い動脈に動脈硬化が生じ、腎機能が障害されてきます。腎機能障害があると血圧が上がりやすくなり、それがまた腎機能を悪くするという悪循環の繰り返しで、ジワジワと腎硬化症が進んでいくのです」
怖いのは、腎硬化症が起こっていても、自覚症状がないことだ。これが早期発見を遅らせ、気がついたときには、人工透析のカウントダウンに入っていたという人が多い最大の原因になっている。
55歳のAさんは、5年ぶりに受けた半日ドックで、尿にタンパクが出て、腎機能を示すクレアチニン値が2.3(正常値は1.0以下)に上昇。腎機能が通常の30%にも落ちていることを指摘されてガク然とした。
「Aさんは30代から高血圧を指摘されていたが、薬を飲んだり飲まなかったりで、血圧管理を怠っていました。病院に来られてから降圧薬を飲み、減塩・低タンパクの食事療法を行いましたが、時すでに遅し。その後クレアチニン値は毎月1ずつ上がり、8カ月後には、人工透析の導入を余儀なくされました」
48歳のSさんは、会社の定期健診で尿にタンパクが出て、クレアチニン値が1.4に上昇していることを指摘された。いつの間にか腎機能が約半分に低下していたのだ。
「腎臓の障害が高血圧によるものかどうかチェックするために眼底検査を行ったところ、高血圧性眼底所見が見られました。Sさんは160―100くらいの軽い高血圧を15年ほど放置し続けていたのです。腎機能をこれ以上落とさないために、降圧薬を飲み、食事療法を徹底してもらっています。うまくいけばこのままの状態を維持できる可能性があります」
富野教授によると、クレアチニン値が2を超えてしまうと、腎不全の進行にストップをかけることは難しくなるという。
それでは、深く静かに進行する腎硬化症の予防、早期発見はどうすればいいのか。富野教授が指摘するポイントは以下の通りだ。
(1)軽度から中程度の高血圧でも放置せず、減塩、肥満解消などで130―80以下にしておく。
「家庭で朝晩、血圧を測定する習慣を。朝が高い早朝高血圧もあるので見逃さないように」
(2)食事療法や運動療法で血圧が下がらなければ、降圧薬を服用して下げる。
(3)コレステロールや中性脂肪値が高い高脂血症も動脈硬化の促進因子。食事療法や薬物療法で下げておく。
(4)クレアチニン値に注意を。
「クレアチニン値が1に近づいたら、腎機能の低下の始まりを疑って病院を受診し、腎臓病の初期にも反応する“血清シスタチンC”の測定を。これが高めに出たら、その時点から定期的な経過観察と治療が必要です」
これが怖い腎硬化症をしのぎ、人工透析に至らずにすませるポイントだ。
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