10年以内に本格的な脳梗塞を引き起こす危険因子とは…


“隠れ脳梗塞”の通称で知られる無症候性脳梗塞の患者が増えている。最近の調査によると、40代で3人に1人、50代で2人に1人、60代以上では7、8割に達するという。無症状だからといって放置していると、本格的な脳梗塞に襲われる可能性が高い。早期発見法と対策について、相模原中央病院の中野重徳院長に聞いた。

 無症候性脳梗塞は、脳の微小血管に脳梗塞が起こるが、極めて小さいために症状がない。
「脳は障害が起こっても、一定のレベルまでは明らかな症状が表れません。症状が表れるか表れないかの境界を“閾値(いきち)”といいますが、無症候性脳梗塞は“閾値”を超えていない状態。たとえ症状があっても、立ち上がるときに少しふらつく、何となく頭が重い、疲れた感じがするという程度。そのため見逃してしまいがちですが、一度起きた梗塞は改善することがなく、放っておくと梗塞部分が増えて、徐々に“閾値”に近づいていくのです」
 まさに“爆弾を抱えている”状態だ。この無症候性脳梗塞に、高血圧、高脂血症、糖尿病、肥満などが重なると、本格的な脳梗塞発症のリスクがグンとはね上がる。
 53歳の営業マンのAさんは、身長170センチ、体重82キロ。肥満が気になってある病院で検査を受けたら、高脂血症と高血圧を指摘された。頭が重いこともあるというので念のため脳のMRIも撮ったところ、6カ所に無症候性脳梗塞が見つかったのだ。医師に治療の必要があるといわれたが、本人は具合の悪いところがなかったので、その後、特に治療は受けなかった。
 検査の1カ月後の暑い日、Aさんは朝起き上がるときに軽いめまいを覚えた。昼近く、営業で外を回っていて急にめまいがひどくなり、激しい頭痛がして吐き気を催した。突然「ううっ」とうめいてうずくまり、立ち上がれなくなった。
 同行していた同僚が救急車を呼んで相模原中央病院へ。検査をしてみると、小脳と脳幹に栄養を供給する血管が、広範囲にわたって詰まった脳梗塞だった。命は取りとめたものの植物人間状態になってしまった。

「無症候性脳梗塞に加えて、高血圧、高脂血症、糖尿病、肥満など脳血管障害を起こす危険因子を複数持っている人は、10年以内に“症状が出る脳梗塞”を起こし、その30〜50%は後遺症が残る重い脳梗塞であるとのデータもあります」
 簡単な運動テストで無症候性脳梗塞をチェックする方法がある。中野院長が勧めるのはまず手のひらの運動だ。
(1)左の手のひらの上に右の手のひらを乗せる
(2)左手の上で右の手のひらを裏返す
(3)再び手のひらを合わせる
(4)これを数回繰り返す
(5)左右の手を入れ替えて繰り返す
 もうひとつ、廊下の板目を利用して左右の足を交互に乗せながら歩く“直線歩行”ができるかどうかもテストになる。
「これらのテストがうまくできない場合は、無症候性脳梗塞が潜んでいる可能性が高いので、脳ドックなどで、脳のMRI検査を。無症候性脳梗塞が見つかったときは、頚部の超音波検査で頚動脈の動脈硬化をチェックし、高血圧、高脂血症などのリスク因子も考え合わせて、個々に経過観察や治療を進める必要があります」
 ある日突然、脳の血管が詰まって半身不随ということにならないために無症候性脳梗塞の早期発見、治療が大切なのだ。


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