国立がんセンター中央病院 土屋了介副院長が体験告白


 国立がんセンター中央病院の土屋了介副院長が便の異常に気がついたのは2001年の8月、55歳のときだった。
「朝、排便の後に便器を見ると、便の周りに赤い血がうっすらと付いている。翌日も、翌々日もそうでした。でも4日目以降は何ともなかったので、そのことは忘れていました。しかしそれから3カ月後の11月のある朝、便が出た後に血の混じった粘液がドバッと出たのです。“これはヤバイ、しまった、痔出血などではないな”と直感しました」
 土屋副院長は肺がんの専門医(外科医)である。そのこともあって、肺の検査は毎年受けていたが、大腸がんのスクリーニング検査といえる便の潜血反応検査などは、数年間受けていなかった。盲点を突かれたのだ。
 翌週、同病院で大腸内視鏡検査を受けた。不安は的中。大腸に5ミリ大のポリープ2個と3センチ大のポリープ1個が見つかったのだ。
「担当医は、気を使って“念のため3つとも取っておきましょう”といったが、小さな5ミリの方はともかく、S状結腸にある3センチの方は“がんであることを確かめるため”に取るのだなと思いました。ベッドの横にあるテレビのブラウン管に、色素をかけられて映し出されたポリープの模様は、まさにがんの顔つきをしていましたから」
 病理検査の結果、ポリープの先端も周りも、がん化していることがわかった。初期ではあるが少し進んでいるがん。周りの大腸にがんが取り残されているので、開腹手術で大腸を20センチ切り取る手術が必要というのが結論だった。

 手術は手術部長の森谷よし皓氏が執刀。麻酔から覚めたとき、管を入れているおしっこが出る所が痛く、背中が張っていた。5日間は痛み止めを飲み、点滴で栄養をとった。
「63キロあった体重が7キロ減って56キロになりました。9日間の入院中に考えたことですか? がん専門医ががんになった心境ですか? ウーン、3人に1人ががんで死ぬ時代ですから、私にも来るべきものが来たというのが率直な感想です。そうそう、手術の後に変わったことといえば、オナラの音色ですね。プーッとかブーッというのは変わらないが、どこかが微妙に違うんですね。自分では、手術でお尻の括約筋の位置が微妙にずれたのが原因かななどと、妙に納得してますが。ハッハッハ」
 便秘がちなので、今でも下剤を飲んで便を出してスッキリさせている。半年に1回は、血液検査で腫瘍マーカーを、CTで肺、肝臓、腸をチェックする。
「がんを手術してから3年半になりますが、現段階で肺や肝臓への転移はないし、大腸にも再発はありません。このままいけるかなという感触が手ごたえのあるものになりつつあります」
 がん死が増えているのは、早期で見つかる人が増えている半面、手遅れになるまで放置している人も多いという両極端の現実があるからだという。
「がんになっても生還するには、男なら50歳過ぎたら毎年、胃、大腸、肺、肝臓などをチェックしておくことですね。私の場合、がん手術後の生活は変わりなし。好きな肉も結構食べているし、2日に1回は晩酌に缶ビール1缶かワイン1杯は飲む。外で人と付き合うときはビールジョッキ3、4杯はいきますね」
 減った体重も元に戻り、体調はすこぶるいい。

●土屋了介(つちや・りょうすけ)1946年1月16日生まれ。59歳。慶応大学医学部卒業。専門は胸部外科学(特に進行肺がんの手術)。2002年4月から国立がんセンター中央病院副院長。


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