ストレスだけで狭心症になる

「冠れん縮性狭心症」という怖いもの

 ストレスがいろいろな病気を引き起こすことはよく知られているが、突然死につながる心筋梗塞に近い狭心症を誘発することをご存じか? 40歳以上の中高年に多く、夜中から明け方にかけてが危ない。複合ストレス時代、だれもが襲われる可能性があるこの怖い病気“冠れん縮性狭心症”について、榊原記念病院循環器内科の長山雅俊副部長に聞いた。

 まずは実例を紹介しよう。
 50代のAさんは、ここ数年間、2カ月に1回の頻度で、就寝時に胸のつまる感じや、のどからみぞおちにかけての圧迫感を感じていた。4、5分続き、冷や汗が出ることもある。
「冠動脈造影検査の結果、冠動脈に動脈硬化はないのに、アセチルコリンの投与で3本の冠動脈全部にれん縮が起こりました。心筋梗塞を起こすほどの冠れん縮性狭心症でした」
 身内に入院中のがん患者がいて、それが大きなストレスになっていたという。
 コンピュータープログラマーの30代のBさんは、夜中に前胸部の圧迫感に襲われた。検査の結果、冠れん縮性狭心症だった。不規則な仕事などの影響で、ひどい不眠症だったという。入院中は精神的に安定していて発作は起きないが、退院するとまた起こるので、4回も入退院を繰り返している。
「離婚して男手だけで子供を育てている40代男性や、しゅうとめとの関係が非常に悪い嫁などの例もあります。治療は血管拡張薬のカルシウム拮抗薬を中心に使います。早めに診断がつき薬物治療を続ければ、発作を抑えられることが多いので心配いりません。ケースによっては、抗うつ薬や精神安定剤と併用することもあります」
 一般に狭心症というと、運動などで心臓に負荷がかかったときに起こる労作性狭心症が多い。これは心臓を養う冠動脈の動脈硬化が原因で起こる。
 ところが安静時にストレスで誘発される冠れん縮性狭心症は、血管の緊張度を調節している血管の内皮が、機能異常を起こすのが原因とされている。
「血管の内皮機能に障害があると、心臓に入っている自律神経(交感神経と副交感神経)の働きが不安定になった時に、冠動脈をグーッとしぼるようにしめつける冠れん縮性狭心症を引き起こすと推定されています。夜中から明け方にかけて発作が多いのは、この時間帯は副交感神経優位から交感神経優位へと切り替わるときだからです」
 通常の狭心症に見られるような動脈硬化による冠動脈の有意(75%以上)な狭窄がないこと、アセチルコリンの冠動脈への投与で冠動脈のれん縮が起こること、狭心症特有の心電図になることなどが診断の条件になる。
 怖いのは、血管の内腔を閉ざしてしまうほどの強い冠れん縮性狭心症を起こし、心室細動や房室ブロックといった危険な不整脈が出て、突然死に至ることがあることだ。
「“ウオーッ”と一声あげて急死するポックリ病の原因の一つに上げられています」
 このご時世、ストレスのない人はいない。そういう意味では、だれもがこの病気に襲われる可能性があるということ。予防法は、当然ながらストレスとうまく付き合うことだ。
「例えば人生観を変えて、第一線からちょっと身を引いたり、後進に道を譲るなどされてはどうでしょうか。それに自分の支えとなる配偶者や友人との関係を大切にし孤独に陥らないこと、規則正しい生活を心がけることなども予防につながります」
 ハッとしたら、すぐ改めることだ。

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