専門医でないと、手術が遅れ命を落とすことがある


 俳優の石原裕次郎さんがかかったことで有名になった大動脈解離(解離性大動脈瘤)。川崎幸病院では週に4、5人が手術を受けるほど中高年に増えている。ところが、大動脈疾患専門の医師がわずかしかいなくて、心筋梗塞と間違われて緊急手術が遅れ、命を落とすことが少なくないというのだ。川崎幸病院大動脈センターの山本晋センター長に聞いた。

 大動脈の壁は、内膜、中膜、外膜と3層構造から成っている。大動脈壁の弱い部分にストレスがかかって、内膜に亀裂が生じ中膜に血液が流れ込む。その圧力で外膜と中膜がはがれる状態になるのが大動脈解離だ。 
「大動脈は心臓から始まり、すべての臓器に分枝血管を出して血液を供給しています。大動脈に解離が起こると、動脈壁は真腔と解離腔の2層に剥離。解離腔が拡大してくると真腔から分枝血管に血液が十分流れなくなり、臓器の血流障害(虚血)が起こってきます」
 具体的には、こんな具合だ。
「例えば心臓の虚血は心筋梗塞、脳の虚血は脳梗塞、腎臓の虚血は腎不全、腸管の虚血は腸管壊死など、致死的な多くの合併症を引き起こします。特に致命的なのは、心臓の虚血と脳の虚血。心臓よりも上部の位置にある上行大動脈の内膜が裂ける大動脈解離で、心臓虚血や脳虚血が予期される場合には、緊急手術で対応するしかありません」
 手術を受けなかった場合、1カ月以内に7、8割が死亡するとされている。その日のうちに死亡してしまう人もいる。

 ところが、循環器内科や心臓外科の専門医は多いが、大動脈疾患を専門としている医師はわずかなのだ。
 胸や背中の激痛を心筋梗塞と間違えてカテーテル検査を行い、大動脈解離をより進ませるという信じられないようなことも起きている。
 大動脈解離を疑わなければ、診断の決め手となるCT検査もやらないので、そのまま帰され、帰宅してから脳梗塞で突然死ということもあるのだ。
 静岡の病院で大動脈解離が見つかったAさん(60代)は、ヘリコプターで川崎市の消防本部に搬送され、そこから救急車で川崎幸病院へ。人工心肺装置を回して心臓を止めた状態で、解離した部分を切除して人工血管に置き換える緊急手術が行われた。
「手術は成功。手術を始めるのがあと10分遅かったら、命は救えませんでした」
 激しい胸背部痛を訴えて救急車で病院に運びこまれたSさん(50代)。心筋梗塞を疑われて心電図や超音波検査を受けたが、異常なし。それでも痛みが続くので川崎幸病院に送られてきた。
「胸部CT検査で、上行大動脈に大動脈解離が見つかり緊急手術を行いました。入院は2週間。元気になって退院されました」
 大動脈解離の原因はまだわからないという。したがって予防法もない。イザというときに、大動脈疾患の治療で実績のある病院に駆け込めるかどうかが、生死の分かれ目になるといっても過言ではないのだ。
「胸や背中が激しく痛むときは、大動脈解離の疑いがあることを知識として持ち、いつでも緊急手術の態勢を敷いている病院を知っておくことが、身を守るための最大の武器となります」
 山本センター長が挙げる病院(関東と関西)は、以下の通りだ。
●川崎幸病院●榊原記念病院(東京都)●千葉西総合病院●国立循環器病センター(大阪府)●神戸大学病院心臓血管外科●心臓病センター榊原病院(岡山県)など。
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